直木賞と本屋大賞にダブルノミネートされた話題の一冊。
『夜行』を読了しました。
私の中で森見登美彦さんはコミカルで軽快なテンポの青春ファンタジーのイメージがありますが、本書はだいぶ真逆のテイストでした。
本書を購入したきっかけ
2019年10月に文庫版が発売されてから気になっていましたが、購入したのは2020年4月頃です。先に読んでおきたいものが結構あったのでしばらく置いておこうと思っていました。
しかし、手持ちが読了したタイミングでいつものように本屋の平積みを眺めてるとやはり本書の魅力的な表紙が気になって仕方がない!更に先日映画版『ペンギン・ハイウェイ』を視聴したばかりということもあって、まだ森見登美彦さんの世界観の余韻が残っていた私は気がつくとレジに並んでいたのだった。
著者 森見登美彦
奈良県生駒市出身。京都大学を卒業しています。
2003年、在学中に執筆した『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して、小説家デビュー。
2006年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞し、 第137回直木賞(2007年上期)候補、2007年第4回本屋大賞(2位)に選定されています。
作風
押井守さん好きなんです。ボーッとしてると、押井守と宮崎駿が自動的に出てくる。気を許すとそれが入ってくるので、後から読み返すと「うわっ、似てる」となるんです。」
wikipedia | https://ja.wikipedia.org/wiki/森見登美彦
押井守と宮崎駿のエッセンスや世界観が本書『夜は短し歩けよ乙女』にも取り込まれているのでしょうか。
一方で自身の作風については下記のように語っています。
「ファンタジーは強引にまとめられるので何とか書けるが、現実の物事がいろいろ複雑に絡み合ったクライマックスは頭に浮かばず書けない」
「シリアスな小説を書く意味がよくわからない。シリアスなものは、怪談しか書けない。まして、ミステリーのように緻密なものは考えられない」
代表作
- 2003年 – 『太陽の塔』 – 第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞
- 2007年 – 『夜は短し歩けよ乙女』 – 第20回山本周五郎賞受賞
- 2010年 – 『ペンギン・ハイウェイ』 – 第31回日本SF大賞受賞
- 2014年 – 『聖なる怠け者の冒険』 – 第2回京都本大賞受賞
- 2017年 – 『夜行』 – 第7回広島本大賞受賞
- 2019年 – 『熱帯』 – 第6回高校生直木賞受賞

ほんのりあらすじ
同じ英会話スクールに通っていた6人の仲間のうち、1人の少女が祭りのあとに突如行方不明となってしまった。
そして10年後の今、彼女を除いた同じメンバーが久しぶりに集い同じ祭りを観に行こうと集まることになった。
宿についた一同は積もる話もあり、それぞれが旅先で起こった不思議な出来事を順番に語っていくのだが、その不思議な出来事には共通して岸田道生という銅版画化の描いた「夜行」という連作絵画が関連していたのだった。
10年前に姿を消した彼女はどうなってしまったのか…。
そして一同は不思議な夜の体験をすることになる。
読み終えた感想
結論、最初は不思議な雰囲気でミステリアスな恋愛ファンタジーだと思っていましたが、実際には一見抽象的でオカルティックな描写が多く、柔らかい文章の割りに話が難解になっています。細かいことは気にせず読み進めてみるくらいが丁度いいのかもしれません。
10年ぶりにかつての友人である長谷川さんが姿を消してしまった祭りに参加する為に集った5人が宿の中で食卓を囲みながらそれぞれ昔話をしていくという形で進められます。
それぞれが短編のようなお話になってるのですが、どれもホラーを感じる内容になっています。「世にも奇妙な物語」のような感じだと思ってください!
終盤から結末にかけて物語本質の読者が一番説明してほしい部分をあえてぼかされているような感じがしました。読み手の解釈に任せる的な?
さて、最後の章で一気に物語が動くことになります。「あぁー!なるほどね?」
畳み掛けるように収束していくこのセクションでようやく各章に散りばめられた情報が繋がってきて全貌が見えてくるのはやはりワクワクします。
しかし、登場人物たちの語る昔話はそれぞれ短編の怪談としてしっかり独立もしていて完結もしている分、そこに含まれる伏線はやはり弱い感じ。
その結果、全体感としては雰囲気小説のような印象をうけました。
時間がある方は結末を知った上で再読するともっと本書を楽しめると思います。
おすすめポイント
- ちょっぴり冷やっとする怪談
- 考えさせられる物語
- サクサク読める
まあ、スルメ本ですね!
何度も読んで味が出てくるようなストーリーだと思います。キャラクターの個性を立たせる表現などはさすがだなぁと感じる一冊となっています。